気候変動及び食糧安全保障に関する懸念が高まるにつれ、飼料業界に対する監視の目が厳しくなっています。その主な理由は、畜産関連の温室効果ガス排出量のうち45.4%が、腸管由来のメタンであるためです1。現在、より持続可能な乳生産の方法が模索されていますが、解決策の一部はごく基本的な
牛群管理に潜んでいるかもしれません。

生産寿命と持続可能な酪農との関係
生産寿命は、持続可能な酪農を考える上でのキーワードです。乳牛の生産性は泌乳サイクルごとに上昇し、5産目の泌乳期で横ばいに転じます(表1)。牛群の平均産次数を延ばし生涯乳量を多くすることができれば、牛群の乳量あたりのメタン排出量は低下します。これは、例えば乳を産生しない育成期などに発生するメタン排出量が、生涯乳量の増加によって「希釈」されるためです。私たちは、酪農牛群の健康に投資して生産寿命を延ばすことで、生乳1 kg当たりの環境負荷を抑えることができるのです。

ブリーバーグ氏は、「産次が進んだ牛ほど乳量が多くなるため、乳牛の淘汰産次数を2.5回から5回に倍増できれば、乳牛の入替えを減らしながら生涯乳量を増やすことができます。」と説明します。淘汰産次数6〜7という並外れて長い生産寿命を実現することで、8年間の更新率を12〜15%程度に抑えた酪農場もあると言います。「生産性の評価では1頭当たりの日乳量に注目しがちですが、持続可能性の指標としては生涯乳量のほうが大きな意味を持ちます。」
生涯乳量は50,000 kgあれば、持続可能性のある酪農を実践していると考えられています。しかしブリーバーグ氏によると、60,000〜70,000 kgを達成して環境負荷の大幅な削減に貢献している酪農場も多く存在するとのことです。23ヶ月齢までの育成期と2か月間の乾乳期には、乳生産が無いにも関わらず飼料費の支出とメタンの排出が続きます(表2)。これらの非生産期間を最小限に短くすることも、生乳1 kgあたりのメタン排出量を抑えながら、牛群の全体的な乳量を増加させることにつながります。

健康管理の基礎を築く
生産寿命の延長のためには、低産次数での淘汰が必要になる前に問題に対処し、包括的な健康管理を実践することが必要です。獣医診療では、乳牛の健康を維持する、つまり病気を予防することよりも、病気になってからの治療が重視されがちです。ブリーバーグ氏は、「私たちは、予防対策による健康リスクの削減に焦点を移すべきです。」と指摘します。
健康管理の基本は、良質な敷料を用意し、畜産環境中の好ましい微生物を直接増やすことから始まります。ただし衛生的な農場環境を作りあげても、乳牛の繁殖管理を成功させなければ生産寿命を延ばすことはできません。
繁殖障害は、乳牛の淘汰の主な原因となるため、繁殖成績の管理は牛群の生産寿命の延長に欠かせません。もっとも重要な期間は、泌乳初期の最初の100日間です。この時期の栄養状態が将来の繁殖成績を左右します。泌乳初期に最適なボディコンディションを維持するには、絶妙なバランスが必要です。
ブリーバーグ氏は「乳牛が一定の周期を維持しながら予定どおりに妊娠するということは、互いに関与しあうさまざまな管理要因が上手くかみあった結果です。」と言います。様々な要因が、ピーク乳量の維持と次の繁殖に向けた準備の両方に影響を与えます。
今後の道筋: 一つ一つの管理が影響を及ぼす
適切な飼養管理で牛群全体の生産成績を最適化することによって、繁殖能を保った生産寿命の長い乳牛を増やし、一頭一頭の生涯乳量を最大化することができます。生産寿命の延長という最終目標を達成するためには、それぞれの管理上の決断が、どう影響するのかを理解することが重要です。
「牛群の最適な生産成績の維持を考えるには、今日1日の産乳量だけではなく、より持続可能な牛群管理を考える必要があります。」とブリーバーグ氏は言います。「乳量を高く維持したまま群に残っている牛の1日1日が、酪農の経済性の向上と温室効果ガス排出量削減の両面に貢献しているのです。」
持続可能性に優れた酪農への道には、革新的な変化は必要ありません。それよりも、乳牛の健康維持、繁殖能及び生産寿命の改善を、実直に目指す戦略が必要とされます。環境負荷に対する監視が厳しくなっている酪農業界における解決策は、一頭一頭の乳牛の生産性を最大限に引き出し、長く持続させるという単純明快なものなのかも知れません。
参考文献
- Food and Agriculture Organization of the United Nations. (2022). Global Livestock Environmental Assessment Model (GLEAM), version 3.0. Animal Production and Health Division. https://www.fao.org/gleam/en
投稿日 2026年4月3日