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ストレス下のサーモン:健康な粘膜バリアによる防御

ストレス下のサーモン:健康な粘膜バリアによる防御

サーモン養殖において、健康管理は体表から始まります。周囲環境からの攻撃に常にさらされているエラ、皮膚、腸には、動的な粘膜バリアが形成されています。しかし、このバリアが破綻すると、傷や炎症、成長成績の悪化、疾患リスクの増大を招き、生産コストが急増します。水質変化、取り扱い時のストレス、病原体への曝露は、これらの繊細な組織に負担を与える主要因となり得ます。

養殖業界は健康を守る戦略を発展させ続けており、機能性飼料は今や魚の回復力維持に欠かせない存在となっています。多くの機能性飼料原料の中で、最も多く適用され、科学的な探求が続けられている解決策のひとつが酵母細胞壁(YCW)由来成分です。YCWの給与は、魚の粘膜バリアを適切に保ち、健康維持に役立つことが報告されています。

近年ラレマンドアニマルニュートリションは、3菌株のYCWを含む酵母混合物の給与が、アメーバ性鰓病または滑走細菌症のリスクに曝されているアトランティック サーモンに及ぼす影響を調べました。

ネオパラメーバ  ペルランス攻撃試験

アメーバ性鰓病(AGD)は、ネオパラメーバ  ペルランスNeoparamoeba perurans)というアメーバ動物によって引き起こされ、アトランティックサーモンの養殖において、最も手強い問題の一つです。この病原体は魚のエラ組織に付着し、酸素の取り込みを阻害することで、成長や健康に悪影響を及ぼします。現在の養殖場では対策として、淡水浴や過酸化水素浴などの人的介入が行われています。しかし作業負担や魚へのストレスが大きく、実用面での課題となっています。

 そこでスコットランドの研究者らは、酵母混合物の給与が、ネオパラメーバ  ペルランスへの暴露に対する防御策となり得るかを検証しました。この試験では、スモルト化した後のアトランティック サーモン(200~250g)を、水温13°C、塩分濃度33 pptで10週間、飼養しました。魚は、対照飼料群と酵母混合物添加飼料群に分け、各群を4つのタンクで飼養しました。至適条件下で5週間飼養した後、魚は強制的にネオパラメーバ  ペルランスに1回目に暴露され、淡水浴され、その後2回目の病原体への暴露を行いました。この試験プロトコルは、実際の養殖現場での生産サイクルやストレス状況を再現することを目的としていました。

この試験の結果、酵母混合物を給与されたサーモンは、より成長が早く、より飼料の転換効率に優れていました。具体的には、瞬間成長率に20%(図1A)、飼料要求率に32%の有意な向上(図1B)が見られました(P <0.05)。またエラの健康状態にも良い影響が見られ、酵母混合物給与群では、エラの健康が保たれていた魚の数が多く、症状が軽度のみのままであった魚の数が対照群の3倍多くなっていました(図1C)。

図1

 この結果は、粘膜バリアの維持を目的とした栄養面からの対策が、外部からの感染ストレスに対する魚の抵抗力の維持に貢献したことを示唆しています。酵母混合物の給与は、魚が厳しいストレス条件下にあっても正常な成長成績を維持する助けになることが期待されます。

滑走細菌(テナシバキュラム マリティマム)攻撃試験1

 スコットランドでの試験と並行して行われたカナダでの試験では、海産魚類の皮膚やヒレに重度の発赤やただれを引き起こす滑走細菌症の原因菌種として知られるテナシバキュラム マリティマムTenacibaculum maritimum)に着目しました。滑走細菌症は、魚の福祉と成長生産に負の影響を及ぼすため、悪影響を低減するための積極的な戦略が求められています。

 カナダでは、病原細菌感染下においても酵母混合物の給与が粘膜の健康維持に寄与するかを15週間の試験で検証しました。アトランティック サーモンの稚魚(初期体重約40 g)を対照飼料群と酵母混合物添加飼料群に分け、水温12°Cの条件下で飼養しました。各群あたり飼養タンクは4つ用意し、試験期間を通じて目視による食欲に基づいて給餌しました。魚を至適条件下で5週間飼養した後、浸漬によりテナシバキュラム マリティマムの攻撃に曝しました。病原菌暴露後は9週間飼養し、その期間中、生存率および外部粘膜表面の肉眼的病変の発現を頻回に観察しました。

この試験でも給与飼料による差異が認められました。酵母混合物を摂取した群では生存率が71%であったのに対し、対照群では58%でした(図2A)。皮膚に中等度から重度の病変がある魚の割合率は約30%低下し、酵母混合物の給与によって魚の健康な粘膜が維持され、感染による二次損傷に対する防御の一助を担ったことが示唆されました(図2B)。

 

図2

 

体内から健康を守る

 魚において粘膜の健康は、消化吸収、免疫、福祉に幅広い影響を及ぼします。そのため魚が生来持っているこの粘膜による防御機構を守ることは、疾病による損失を減らすことにつながります。そのうえ、化学物質を用いた人的介入への依存度と、それに関連する副作用を最小化することにもなります。
 YCWを含んだ酵母混合物は、どのように腸と皮膚の免疫系および全身の防御能に作用するのでしょうか。その正確な生物学的メカニズムを明らかにするには、更なる研究が必要です。しかし酵母混合物の給与が、粘膜および魚の健康、そして福祉に寄与することは間違いありません (下図)。

先の2つの試験では、酵母混合物の給与によって、感染ストレス下のアトランティックサーモンの健康な粘膜が維持され、それに関連して生存率が上昇したことが示されました。また注目すべきこととして、健康維持だけではなく、瞬間成長率と飼料要求率の向上も認められました。
 これらの所見は、この機能性成分がアトランティックサーモンの海面養殖で問題となっている粘膜疾患に対する魚の抵抗性維持の助けになることを示しています。

参考文献

  1. Leclercq E et al., 2025. Enhanced resilience to infectious skin diseases in Atlantic salmon supplemented with novel yeast cell wall products. Aquaculture Europe 2025; Valencia (Poster)

投稿日  2026年4月2日 | 最終更新日 2026年4月3日

水産養殖